Neutral Frame.

傷の感触

2025.10.15

台風が近づいているらしい。空には暗い雲が広がる。連休の始まりだったが、重暗い空が心を映しているようだった。

人と話すと、言葉の端が引っかかった。後になって、もう少し言い回しに気を遣えたのではないかと考える。気にしても仕方のないことが、いつまでも頭の中を漂っている。

枕元のスマートフォンに手を伸ばすと、画面に細い傷がついていることに気がついた。少し指でこすると消えたように見えたが、角度を変えれば変わらず光を反射して存在を主張している。いつできた傷だろうか。やけに、それが気になった。

コーヒーを淹れる。適当に選んだマグカップに注いだまま、忘れていた。ぬるくなったそれを飲み干して、なんの気なくカップを眺めていた。小さく欠けている部分を見つけて、指でなぞっていた。

外出すれば気も紛れるだろうか。電車で何駅か移動して、喫茶店に向かったが、休みだった。

最近は気兼ねなく読書をできる場所も少ない。途方に暮れて川沿いを歩いていたが、日が暮れるにつれて、秋の空気が骨に触るようだった。もう少し厚着をしてくればよかった。

長年持ち歩いている傷だらけのカメラを撫でながら歩いた。結局、シャッターは二度しか切らなかった。

気持ちが重い。もともと、陽気と言える気質ではないが、ささくれ立つように小さな出来事に気が立っている自分を感じる。何も、うまくいかない。

月の満ち欠けのような、大きな周期から、少しずつ外れていく感覚がいつもある。それはやがて大きなズレとなり、また静かに戻っていく。その往復の、いまはその端にいるだろう。

何もなかった帰り道。電車から夜景と呼ぶには頼りない光たちを眺めていた。

ベッドに横になり部屋の電気を消した。眠れなくて暗闇の中で、スマホを触る。鈍く光る傷を、指でなぞった。

傷は、触れても形を変えない。それでも、触れるたびに、その冷たさが、自分がいることを確かに思い出させる。

しばらくそうして、自分の存在を確かめていた。

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